作品が完成するまでの過程は無(Void or Nothingness)へとたち還る、解放へのプロセスともいえます。一つ一つの単調な作業の繰り返しの中で、モチーフや色を選ぶことは、静かなるインスピレーションに全てを委ね、行っていきます。作業の中では自身と向き合い、心の深いところから浮かび上がってくること、ひとつひとつを丁寧に光の世界へと解放していきます。作品が完成すると、私は作品との間に真なる無の関係を体験します。それは、完成後2~3日の間、絵を見ても全く何も感じない、何の言葉も批判も浮かばないという体験です。『私』という感情を持ち合わせていた人間と、ほんの少し前までずっと共に時を刻んできた『作品』との、二つの関係が無に在ることが証明されているかのような体験です。しばらくの無の体験から次第に、作品に対する感情と言葉が生まれてきます。

私は、作品を完成させるたびに、超意識と自己との信頼が深まっていくのを確信します。作品の中に現れる形状をはじめ、全ての出来事、あらゆる色と形あるものの存在が、全く別の表現をもって私に真実を語りかけます。作品と私を取り囲む全てが、私に作品を作らせてくれるエッセンスとなり、信頼関係をもったコミュニケーションツールとなります。この五感を超えたコミュニケーションを通し、個が全体に溶け込んでいくような体験をします。私は作品を通して、これらの個と全体の世界を表現していきたいです。